欧州のオフロードマシンを触り続け、現在日本国内でTM Motoを最も隅々まで知る奈良のスペシャルショップ、JERRY’S。そのオーナーである松本氏が、愛を持ってTMを語る「JERRY'S松本氏の素晴らしきTMワールド」第一弾に続き、第二弾をお届けします。2ストロークのエンジンは組む人によって性能ががらっと変わるもの。TMの2ストエンジンの職人による仕上げを覗いてみましょうカートが源流だから、精度を追求するTMの源流は四輪のカートエンジンです。カート用のレシプロエンジンメーカーとして出発したTMは、非常に厳しいカートのレギュレーションの中で揉まれて育ってきました。カートのエンジンマニュアルには、オフロードバイクでは考えられないほど細かいデータが載っているのをご存じでしょうか。FIAのホモロゲーション用の細かい寸法がすべて記載されており、これを守っていないとレースに参加できないのです。ガスケットがへたってしまって圧縮比が変わった時点でアウト。エンジンに詳しい人ならガスケットの厚みを変えることで、圧縮比を調整してエンジン特性をチューニングする方法をご存じだと思いますが、それすら許されていないのです。つまり、へたったガスケットで組んだ時点でアウトなんですね。だから、本格的にレースに挑むチームは正確に組んだエンジンを何基も組んだまま寝かせておきます。金属の分子密度が段々変化していくのですが、その中でうまいこと精度がぴったり出てよく回る優れたエンジンが出来上がるのです。圧縮比やボアはいじれないから、とにかく回るエンジンをつくる。エンジンのパワーはトルク×回転数ですから、回転数を稼ぐことでパワーを引き出すんですね。100ccのエンジンで15,000から20,000回転くらいまで回すんですよ。TMはそういうエンジン管理の中で育ったメーカーだから、すごく細やかな調整を可能とするんですね。鍛造ピストンへの追加加工で強度と軽量化を両立輸入車の多くは、コストはかかりますが鍛造(たんぞう)ピストンを採用しています。アルミ合金を溶かさずに叩いて加工するため、耐久性や強度の高いピストンとなるためです。一方で、日本車のヤマハYZ等で利用されている、溶けたアルミを金型に流しこみかためてつくる鋳造(ちゅうぞう)ピストンと比べると軽量化の面では少し不利になります。このことからTMでは、VERTEX社製の鍛造ピストンへ追加加工(ピストンピン周辺側面や裏側の切削加工、そして125cc等ではビストンピン上の切削加工)を行うことで鍛造ピストンでありながら軽量化にも気を配った設計を実現しています。▼左からTM(300)、Beta(300)、KTM(250)のピストン。いずれもピストンメーカーは、VERTEX社製品を純正採用している。ピストンは公差を数字で管理していた多くのメーカーは、ピストンの生産公差をA〜Cの3グループに分けており、それに合わせてやはりA〜Cのシリンダーが用意されています。生産の都合上どうしても設計とのズレが出てきてしまうので、材料ロスを少なくするために基準値を3つ設けているということです。特にシリンダーにはメッキ処理をするので個体差が出やすいのですが、例えばAのシリンダーの大きめのものとAのピストンの小さめのものを組むと、クリアランスは大きくなりますよね。この組み合わせの妙で、クリアランスが大きいと回るエンジンになるし、小さければトルクのあるエンジンになる。各グループの組み合わせに応じてクリアランスにバラつきがでますが、普通のメーカーでは許容範囲とされます。一方で、かつてのTMでは組んだ車両のシリンダーに58とか60とか、2桁の数字が書いてありました。これ、ピストンクリアランスを示す数字なんです。つまり、クリアランスをこの指定の数に合わせることを前提に作っています。ピストンのボアは1/100mm違いで5種類くらい用意されていますし、出荷状態のエンジンに個体差が生まれないようにしているのです。▼ピストン(画像1枚目)とシリンダー(画像2枚目)。最高の条件で燃焼させるために、ガスケットは何種類も用意されるそもそも2ストロークのエンジンは、日本のメーカーだとベースガスケットが1枚しか用意されていません。欧州だと4〜5枚くらいの厚さ別に用意されています。よくこれを見て、日本のエンジンはピストンもシリンダーも寸法通りに作ることができているからだ、と言う方がいるのですが、実はそうではありません。イタリアでもピストンやシリンダーの高さは正確に作れるものなんです。質が違うのは紙なんですね。日本の紙は本当にクオリティが高く、規定トルクで締めつければマニュアルどおりの数値に収まります。欧州は紙に個体差があるので、数種類のガスケットを用意しています。これで何を目指すのかというと、最も適した燃焼状態なんです。2ストロークは最高の燃焼状態の時、ピストンの上部に残る燃え跡がハートマークのように出ます。混合気が掃気ポートからシリンダー内に入って、渦巻くことで起きる現象です。▼ハート型の燃え跡のついたピストン上部。最高の燃焼状態を示す。この形がきれいに出るように、ポートを削って混合気の流れを整えたりするわけですが、ガスケットの厚みでポートの高さが変わることでも燃焼室の容量(スキッシュ)が変化し、変わってくるんですね。欧州では、このスキッシュを追い込むために、適正なガスケットを組み込みます。TMの少し古い時代の2ストロークでは、一番薄いガスケットは0.05mm厚くらいでなんとセロハンで出来ていました。通常は薄くても0.10mmまでといったところで、TMがいかに細かく純正の部品で性能を追い込んできたかがおわかりいただけると思います。▼セロハンでできたガスケットエンジンは、スキッシュ、ピストンクリアランス、点火時期、排気デバイスの調整を組み合わせることでエンジンの性格をチューニング出来るのです。TMの2ストロークエンジンをみていくと、レースという厳しい舞台で勝利を収めるための不断の追求と挑戦が込められています。TMが世界中のトップレーサーやメカニックから尊敬され続ける理由は、見えない細部まで及ぶこの職人の技と心に他なりません。■JERRY’S店舗情報〒639-1031 奈良県大和郡山市今国府町187営業時間:10:30~19:30定休日:日、祝日、イベント開催日TEL :0743-56-3218メール:jerrys@mvg.biglobe.ne.jpWEB SITE:http://jerrys.web.fc2.com/■JERRY’S 松本氏によるTM解説動画もご覧ください 【TM談義前編】乗れば上手くなるバイク、TM Racing 【TM談義後編】125ccと144ccの違いと、TM 4ストのこだわり解説 ■TMの情報は各種SNSでも発信していますX(旧twitter)facebook【本件に関するお問い合わせ】株式会社うえさか貿易PR担当 info@tmracing.jp