欧州のオフロードマシンを触り続け、現在日本国内でTM Racingを最も隅々まで知る奈良のスペシャルショップ、JERRY’S。そのオーナーである松本氏が、愛を持ってTMを語るわかる人にだけわかる、TMの付加価値これまでTMはメディアにおいて「オフロードバイク界のフェラーリ」、「イタリアの工房で生産される小ロットの高級バイク」などと表現されてきました。確かに他の欧州車よりも価格帯が高く、品質も高いためそう間違ってはいないかもしれません。ただ、TMはチタンやカーボンといった特殊で高級な素材を使うことで存在価値を生み出しているわけではないため、TMを目の前にして「これはとても高級なバイクだね」と判断する方は多くはないと思います。ーー各部パーツにはアルマイトすらかかっておらずアルミ地がむき出しになっていて、デコレーションすらろくにされていない。ーー近年のオフロードバイクでは常識になりつつあるインモールドのグラフィックも採用されておらず、相変わらず厚手のデカールでグラフィックが入っている。ーークランクケースは自社で鋳造しているから、その鋳肌はだいぶ荒れている(これは見方によっては、超少数生産のファクトリースペシャルケースのようだと言えるかも知れないですが)。このように、外見だけ見れば、TMのバイクは他社より前時代的だと思われるかもしれません。では何がTMをオフロードバイク界の高級車たらしめているのかというと、まずは素材。オフロードバイクを構成する上で大半を占める素材といえばアルミ合金ですが、TMのマシンに使われているアルミはそもそもその品質からして他とは違っています。4ストのシリンダーヘッドをハンマーで叩いてみれば、カキーンという甲高い音がすることで、その金属の密度の違いがわかります。イタリア製のエンジンは四輪でもよく壊れるという話を聞くため、素材が悪いと思われがちですが、その実は真逆。たとえば、フェラーリサウンドが独特な音質なのは硬質で密度の高い金属を使用するシリンダーヘッドならではのものだし、TMのエンジン音が他メーカーとはだいぶ趣が違うのも、この素材の違いによるところが大きいと思っています。密度の高い金属が共振するからこそ、超高音の甲高い楽器のようなサウンドが生み出されるのです。もちろん音だけではなくて、この密度の高いアルミを使うことで溶接の溶け込みやすさも変わってきますし、加工時の粘りもまるで違うものになります。職人の手仕事が精度を生み出すエンジンの心臓部であるクランクシャフトは、全て職人がセンター出しを手作業でおこなっています。通常のメーカーであれば公差(設計における実際の寸法の許容限界のこと)はおおよそ30マイクロメートルが許容されますが、TMの場合は出荷状態で0マイクロメートル。このレベルの精度を出すこと自体がかなり難しく、クランクの個体差もあって工業製品として0マイクロメートルを出すのは至難の業。新車のエンジンをわざわざ一旦バラして組み直すブループリンティングなみの精度を誇ります。▼センター出しを行う様子。画像をクリックすると動画に遷移します。また、クランクシャフトに接続するプライマリーギヤまわりも、高精度で組み付けられています。他メーカーでは、ウッドラフキーという回り止めと位置決めを兼ねる楔をいれることで組み付けの精度を出すのですが、TMの場合はモールステーパー式といって高精度な部品(テーパー)同士が嵌合することで回り止めを果たしています。(※年式や車種によって異なります)モールステーパー式はズレが許されないフライス盤(金属等の切削機)の主軸などにも使われる工業規格なので、職人の手によって完璧な位置に部品(テーパー)をおさめることでウッドラフキーを上回る精度を達成することが出来るのです。エンジン組み立てについても、適切な締め付けトルクで組み付けるだけのライン工のものとはまるで違っています。できあがってきたシリンダーやヘッド、クランクケースなど、それぞれに公差があるため、若干の差が生まれています。それらを何も考えず同じように組み上げてしまうと見た目には気づけないようなバランスの悪さやバラツキを生み出してしまうため、1つ1つの部品を見て、計測して、少しだけこれは重いな、軽いな、と判断しながら締め付けトルクを若干甘めにしたり、クリアランスを余計にとったり、若干削り込みながら組み付けていく。そうやって1台1台を調子よく組み上げていくのがTMの職人の真骨頂なのです。▼エンジンを組み上げる様子2ストロークのシリンダーというのは、製造工程上どうしても各ポートの最後の仕上げとして人がリューターで削らなくてはいけないのですが、これも経験を積んだ熟練工がおこなうことで確実な性能を発揮しています。シリンダー内壁にオイル溜りとして極微細な溝を掘るクロスハッチの加工も、TM自社で職人がおこなっています。▼4ストのシリンダーヘッドの加工場面。画像をクリックすると動画に遷移します。近年ではTMもある程度の生産効率を重視しており、おそらく2019年あたりから上記のような手仕事も少しずつ減ってきてはいます。しかし、やはり生産マニュアルを作ることが出来ない領域まで踏み込んでいるのがTMのエンジン。言うなればTMは、納車時の状態でセミファクトリーマシンくらいのものになっているわけです。買った後に整備でバラしていくと色々なところに職人の手作業が入っていることがわかります。そういったハンドメイドのバイクが、大手メーカーをモトクロスやモタード、エンデューロで打ち負かすことがある。この小さな巨人に、長年心をわしづかみにされています。■JERRY’S店舗情報〒639-1031 奈良県大和郡山市今国府町187営業時間:10:30~19:30定休日:日、祝日、イベント開催日TEL :0743-56-3218メール:jerrys@mvg.biglobe.ne.jpWEB SITE:http://jerrys.web.fc2.com/■JERRY’S 松本氏によるTM解説動画もご覧ください 【TM談義前編】乗れば上手くなるバイク、TM Racing 【TM談義後編】125ccと144ccの違いと、TM 4ストのこだわり解説 ■TMの情報は各種SNSでも発信していますtwitterfacebook【本件に関するお問い合わせ】株式会社うえさか貿易PR担当 info@tmracing.jp